実質賃金4年連続マイナス。補助金という名の「麻薬」が切れるとき。
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先日発表された最新の経済統計を眺めていた際、私たちの生活の土台を確実に揺るがしている「ある冷徹な数字」に目が留まりました。
それは、私たちが手にする給与の実際の購買力を示す「実質賃金」が、4年連続で減少してしまったというニュースです。
春闘での大幅な賃上げや最低賃金の底上げといった華やかな話題がメディアを賑わせている裏側で、なぜ私たちの財布はこれほどまでに軽くあり続けるのでしょうか。
今回は、この数字の背景に潜む構造的な課題を紐解きながら、私たちがこれからの時代を生き抜くために必要な「本当の資産防衛」について、じっくりと考えてみたいと思います。
1.「名目の幻影」にかき消される私たちの努力
公表された毎月勤労統計調査によると、正社員などの基本給や手当を合わせた現金給与総額は、前年度から2.5%ほど伸びているそうです。
この基本給の底上げやベースアップの広がりは、実にバブル経済崩壊直後以来の大きさであると報じられています。
一見すると、私たちの働く環境は改善に向かっており、企業もまた従業員の労苦に報いようと努力しているかのように見えます。
しかし、問題はその先にあります。
この名目上の給与の伸びを、それ以上の凄まじい勢いで襲いかかってきた物価の上昇が、跡形もなくかき消してしまったのです。
購買力を測る物差しである消費者物価指数は、家賃換算分を除いたベースで前年度比3.0%の上昇を記録しました。
これで4年連続の3%超えとなり、私たちの生活水準は実質的に引き下げられ続けていることが数字の上でも完全に証明されました。
毎日一生懸命に働き、会社から評価されて給与が増えたとしても、スーパーのレジで支払う金額がそれを上回る速度で膨らんでいく。
この「走っても走っても景色が変わらないトレッドミル」のような徒労感こそが、現代の日本社会を覆う閉塞感の正体なのかもしれません。
2.食卓を直撃するインフレの本番
今回の統計で特に深刻なのは、価格上昇の主役がコメやチョコレートといった、私たちの日常に欠かせない食料品であるという点です。
贅沢品を我慢すれば済むという話ではなく、生きるために必要なコストそのものが底上げされているのです。
さらに恐ろしいのは、このインフレの波は決して一時的なものではなく、むしろ「これからが本番」であるという厳然たる現実です。
足元の世界情勢に目を向ければ、中東における緊張の長期化や海上物流の混乱により、原油価格をはじめとするエネルギーや原材料のコストには、常に強烈な上昇圧力がかかり続けています。
現在、私たちの電気代やガソリン代は、政府による巨額の補助金という臨時のクッションによって辛うじて表面的な爆発を抑え込まれているに過ぎません。
しかし、このような人工的な痛みの先送りが永久に続けられないことは、誰の目にも明らかです。
この補助金という名の麻薬が切れたとき、あるいはさらなる円安の進行によって輸入物価がもう一段跳ね上がったとき、私たちの生活を襲う物価高の本震がやってくることになります。
企業の賃上げ努力は尊いものですが、世界規模で起きている通貨価値の希薄化とコストプッシュ型インフレの猛威に対して、一企業の給与引き上げのスピードが追いつくことは構造的に不可能なのです。
3.「現金の檻」から抜け出す勇気
これまでの長く暗い停滞の時代、あるいはモノの価値が下がり続けるデフレの海を過ごしてきた私たちにとって、「現金で貯蓄すること」こそが最強の自衛手段であり、最も確実な正解でした。
額面が変わらない銀行預金は、周囲の物価が下がることで、持っているだけで実質的な価値が上がっていったからです。
しかし、時代の方針は完全に書き換わりました。
物価が毎年3%ずつ上がっていく世界において、金利がほとんどつかない銀行口座にお金を眠らせておくことは、毎年自分の資産を3%ずつ自ら進んでドブに捨てていることと同義です。
これからのインフレ時代における最大の恐怖は、投資によって元本を減らすリスクではなく、現金のまま持ち続けることで購買力を失っていく「持たざるリスク」にあります。
企業がどれほど稼いでも、その果実が迅速かつ十分に労働者の給与として還元されないのであれば、私たちは別の方法でその成長の恩恵を享受しなければなりません。
そのための唯一の現実的な手段が、インフレによって価値が膨らむ「株」や「不動産」といった実物資産・成長資産を自らの手で保有することです。
企業の稼ぐ力そのものである株式は、物価上昇を製品価格に転嫁して生き残る企業の生命力と直結しており、長期的なインフレに対する強力な盾となります。
また、物理的な限界を持つ不動産などの資産も、通貨の価値が薄まっていく世界において、その絶対的な価値を維持し続ける性質を持っています。
4.自ら考えて行動
私たちは今、国や企業が用意してくれたレールに乗っていれば自動的に老後まで守られる、という牧歌的な時代の終焉に立ち会っています。
実質賃金が4年連続でマイナスを示しているという事実は、真面目に働いて貯金をするという従来の美徳だけでは、自分や大切な家族の生活を防衛することができなくなっているという、冷徹な警告です。
だからこそ、日々のニュースが伝える表面的な数字の上下に惑わされるのをやめ、その裏側でどれだけ「お金の価値」が変化しているのかを冷静に見極める知性が必要になります。
大切なのは、現金の持つ安全性を認めつつも、それがインフレの海では徐々に溶け出していく氷のようなものであるという現実を直視することです。
そして、資産の一部を世界経済の成長やインフレに強い資産へと適切に分散し、地に足のついた自衛策を淡々と積み重ねていくことです。
格差の拡大が叫ばれる時代ですが、その本質は資金力の差ではなく、こうした時代の変化を敏感に察知し、自ら考えて行動を変えられるかという「情報の質の差」から生まれるのです。
5. おわりに
現在のベースアップが30年ぶりの高水準であるという響きには、どこか感慨深いものがあります。
しかし、その歓迎すべき変化すらも、インフレという巨大な重力によって相殺されてしまう今の時代のシビアさには、改めて身が引き締まる思いがします。
時代は決して過去のデフレへとは巻き戻りません。
私たちは新しいルールの世界に生きているという自覚を持ち、古い地図を捨てて未来を見据える必要があります。
皆様は、この止まらない実質賃金の減少と、これから本番を迎える物価上昇の足音を、日々の暮らしの中でどのように肌で感じていらっしゃいますか。
そして、現金の「檻」から一歩踏み出し、ご自身の未来の豊かさを守るために、どのような具体的な備えを始めていこうと考えますか。
この激動のフェーズを、共に学びながら力強く歩んでいけることを願っております。

